第1章 運送業の開業 5 運送業は個人でも開業できる?
結論|運送業は個人事業主でも開業できる
「運送業を始めたいけれど、法人を設立しなければできないのでは?」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、運送業は個人事業主でも開業できます。
ただし、一般貨物自動車運送事業(いわゆる緑ナンバーの運送業)を始める場合は、個人であっても法人であっても同じ許可要件を満たさなければなりません。
そのため、「個人だから簡単に始められる」というわけではありません。
この記事では、
- 個人でも運送業を開業できるのか
- 個人開業と法人開業の違い
- 運送業許可に必要な要件
- 個人開業のメリット・デメリット
についてわかりやすく解説します。
運送業にはどのような種類がある?
運送業と一口にいっても、実際には複数の事業形態があります。
個人で開業を検討している方は、まず自分がどの事業を始めようとしているのかを理解することが大切です。
軽貨物運送事業
軽貨物運送事業とは、軽自動車を使用して荷物を運送する事業です。
近年では、
- 宅配便
- ECサイトの商品配送
- スポット配送
などで多く利用されています。
軽貨物運送事業は許可制ではなく届出制であるため、比較的少ない資金で開業できます。
そのため、個人事業主としてスタートする方も少なくありません。
詳しくは、
→「軽貨物と一般貨物運送事業の違い」
の記事で解説しています。
一般貨物自動車運送事業
一般貨物自動車運送事業とは、
トラックなどを使用して他人の荷物を有償で運送する事業
をいいます。
一般的に「運送会社」と呼ばれる事業者の多くがこの事業に該当します。
この事業を行うためには、貨物自動車運送事業法に基づく許可が必要です。
運送業許可については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→「運送業許可とは」
個人でも一般貨物自動車運送事業を始められる?
法律上は個人でも許可取得が可能
貨物自動車運送事業法では、法人だけでなく個人事業主も一般貨物自動車運送事業の許可申請を行うことができます。
そのため、
- 個人だから申請できない
- 法人を設立しなければ許可が取れない
ということはありません。
実際に個人事業主として運送業許可を取得し、事業を行っている方もいます。
個人だから許可要件が緩和されるわけではない
ここは非常に重要なポイントです。
運送業許可の審査では、
- 営業所
- 車庫
- 車両
- 人員
- 資金
などの要件が審査されます。
これらの要件は、個人事業主であっても法人であっても基本的に同じです。
つまり、
「個人だから簡単に許可が取れる」という制度ではありません。
個人で運送業を始めるために必要な主な要件
営業所を確保する
運送業許可を取得するためには営業所が必要です。
営業所は単に事務所として使用できれば良いわけではなく、
- 都市計画法
- 建築基準法
- 農地法
などの関係法令に適合している必要があります。
自宅を営業所として使用できるケースもありますが、事前確認が欠かせません。
詳しくは、
→「運送業許可の営業所要件」
の記事をご覧ください。
車庫を確保する
営業所とは別に車庫も必要です。
車庫には、
- 必要な面積があること
- 車両が支障なく出入りできること
- 使用権原があること
などの条件があります。
運送業許可では車庫要件が原因で計画の見直しが必要になるケースも少なくありません。
詳しくは、
→「運送業許可の車庫要件とは」
の記事で解説しています。
車両を確保する
一般貨物自動車運送事業では、原則として営業用車両を5台以上確保する必要があります。
例えば、
- 2トントラック
- 4トントラック
- 大型トラック
などが対象です。
軽自動車は含まれません。
これから開業する方にとって、車両の確保は大きな課題の一つです。
詳しくは、
→「運送業許可に必要な車両台数とは」
をご覧ください。
運行管理者を確保する
運行管理者は、
- 点呼
- 運転者管理
- 労務管理
- 安全運行管理
などを行う重要な存在です。
一定の条件を満たせば、個人事業主本人が運行管理者として選任されることも可能です。
詳しくは、
→「運行管理者とは」
で解説しています。
整備管理者を確保する
整備管理者は車両の安全管理を担当します。
運送事業では車両管理が非常に重要であるため、整備管理者の選任も必要になります。
詳しくは、
→「整備管理者とは」
の記事をご覧ください。
資金要件を満たす
運送業許可では資金計画も審査対象です。
よく、
「運送業許可には最低いくら必要ですか?」
という質問があります。
しかし、国土交通省が全国一律で
「自己資金○○万円以上」
という基準を定めているわけではありません。
資金要件はどのように判断される?
許可申請では、
所要資金以上の自己資金を保有していること
が求められます。
所要資金には、
- 車両購入費
- 登録費用
- 自動車税
- 自賠責保険料
- 任意保険料
- 営業所賃料
- 車庫賃料
- 人件費
などが含まれます。
事業計画によって必要額は大きく変わるため、一律の金額はありません。
個人開業で資金要件が大きな壁になることも
例えば、
- 中古トラック5台
- 営業所賃貸
- 車庫賃貸
という計画でも、数百万円から1,000万円以上の自己資金が必要になることがあります。
そのため、実務上は営業所や車庫の確保以上に、資金面で計画を断念するケースも少なくありません。
そのため、営業所や車庫の確保と並んで、資金計画の作成は運送業許可取得に向けた重要なポイントといえるでしょう。
詳しくは、
→「運送業許可に必要な資金とは」
の記事で解説しています。
個人で運送業を開業するメリット
自由な経営判断ができる
個人事業主は意思決定を自分で行うことができます。
そのため、
- 営業方針
- 車両導入
- 取引先選定
などを柔軟に判断できます。
開業手続きが比較的シンプル
法人設立の場合は定款作成や登記が必要になります。
一方で個人事業主は、税務署へ開業届を提出することで事業を開始できます。
個人で運送業を開業するデメリット
資金調達面で不利になることがある
金融機関やリース会社によっては、法人の方が信用力を評価されるケースがあります。
車両導入には多額の資金が必要となるため、この点は十分検討する必要があります。
事業拡大に限界が生じる場合がある
従業員の増加や車両の増車を進める場合には、法人の方が運営しやすいケースがあります。
実際には、個人でスタートし、事業拡大に合わせて法人化する事業者も少なくありません。
個人が責任を負うことになる
事業上の借入や契約については、原則として個人が責任を負います。
経営リスクも含めて検討することが大切です。
個人開業で失敗しやすい3つのポイント
個人で運送業を開業することは可能ですが、実際には許可申請の段階で計画の見直しを迫られるケースも少なくありません。
ここでは、個人開業を検討している方が特に注意したいポイントを紹介します。
車庫要件を確認せずに契約してしまう
運送業許可では車庫要件が重要な審査項目です。
土地を契約した後に、
- 接道要件を満たしていない
- 車両の出入りが困難である
- 面積が不足している
といった問題が判明し、計画を変更しなければならないケースもあります。
特に個人で開業する場合は、自宅近くの土地を車庫として利用したいと考える方も多いですが、事前確認が欠かせません。
→「運送業許可の車庫要件とは」
自己資金の考え方を誤ってしまう
開業を検討している方の中には、
「トラックを購入する資金があれば大丈夫」
と考える方もいます。
しかし運送業許可では、車両代金だけでなく、
- 自動車税
- 保険料
- 登録費用
- 営業所費用
- 車庫費用
なども含めた所要資金を算出します。
そのため、想定していたよりも多くの自己資金が必要になるケースがあります。
→「運送業許可に必要な資金とは」
許可取得までの期間を考慮していない
運送業許可は申請後すぐに取得できるものではありません。
許可申請から許可取得、運輸開始までには一定の期間を要します。
そのため、
- 車両契約
- 従業員採用
- 荷主との契約
などを急ぎすぎると、予定どおり事業を開始できない場合があります。
開業スケジュールは余裕を持って計画することが重要です。
→「運送業許可取得までの期間」
個人開業がおすすめな人
次のような方は個人開業との相性が良いでしょう。
- まずは小規模でスタートしたい
- 自ら運転業務も行う予定
- 将来的に法人成りを検討している
- 開業コストを抑えたい
一方で、
- 将来的に車両を増やしたい
- 従業員を多く雇用したい
- 大手企業との取引を目指したい
という場合は、法人設立も選択肢の一つになります。
個人開業から法人成りを目指すケースも多い
個人事業主として運送業を始めた後、事業の成長に合わせて法人化する事業者も少なくありません。
これを一般的に「法人成り」といいます。
例えば、
- 車両台数が増えてきた
- 従業員を雇用するようになった
- 売上規模が大きくなった
といったタイミングで法人化を検討するケースがあります。
もちろん、最初から法人を設立して開業することも可能です。
重要なのは、「個人か法人か」という形式ではなく、自身の事業計画に合った開業形態を選択することです。
運送業許可の取得という観点では、個人でも法人でも基本的な許可要件は変わりません。
個人開業と軽貨物開業で迷っている方へ
運送業を個人で始めたいと考えたとき、
「軽貨物と一般貨物のどちらで開業するべきか」
で悩む方も少なくありません。
軽貨物運送事業は届出により開業できますが、一般貨物自動車運送事業は許可が必要です。
また、
- 必要車両数
- 開業資金
- 許可取得の有無
- 事業規模
などにも大きな違いがあります。
将来的にどのような事業を目指すのかによって、適した選択肢は変わります。
詳しくは、
→「軽貨物と一般貨物運送事業の違い」
をご覧ください。
まとめ
運送業は個人事業主でも開業できます。
しかし、一般貨物自動車運送事業を始めるためには、
- 営業所
- 車庫
- 車両5台以上
- 運行管理者
- 整備管理者
- 資金要件
などの許可要件を満たさなければなりません。
また、個人だから要件が緩和されるわけではなく、法人と同様の審査を受けることになります。
開業形態を検討する際は、許可取得だけでなく将来の事業計画も踏まえて判断することが重要です。
運送業許可のご相談は行政書士山下法政事務所へ
運送業許可では、営業所や車庫の適法性確認、資金要件の検討など専門的な確認が必要になります。
特に個人開業を検討している場合は、開業後の運営も見据えた準備が重要です。
行政書士山下法政事務所では、運送業許可申請のサポートを行っています。
30年間行政実務に携わった経験を活かし、事業者の皆様の開業を支援しております。
運送業の開業をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。
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